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デジタル化・AI導入補助金の不正行為に加担しないためできること

8分

デジタル化・AI導入補助金のHPを確認すると、赤字で目立つように「不正行為」に関する注意喚起が行われている。事業者が意図的に不正行為をすることは言わずもがなだが、IT導入支援事業者の助言が不正行為に直結していることもある。

事業者自身が継続的に知見を更新し、不正に巻き込まれない体制を整えることが、結果的に最も安全な補助金活用につながるだろう。

本記事では、デジタル化・AI導入補助金で不正行為に加担しないために何をすべきかについて、同制度に精通している株式会社善略代表取締役小田貴志氏に話を伺った。

不正行為の危険性

補助金を不正に受給する行為は、事業者として絶対に手を出してはいけない領域だ。『最悪、バレたら返還すれば良い』と安易に考える事業者もいるかもしれない。しかし、この考え方は極めて危険だ。

「IT補助金はあくまで該当するソフトやツールを導入するために活用するものであります。不正をして補助金を得ようとする考え自体が危険で間違っています」(小田氏)

仮に補助金を不正受給したことが事務局に判明するとどうなるか。デジタル化・AI導入補助金はGビズIDとよばれるIDで申請が行われる。このIDはデジタル化・AI導入補助金だけではなく、事業者が別の事業で補助金を申請したい時にも活用する。過去に補助金を不正受給していた事実が判明してしまえば、受給資格を失ってしまう。リスクしかない行為だ。

事業者として不正行為に手を染めることは、社会的信用を完全に失墜させてしまう行為であり、絶対に手を出してはならないと認識すべきだ。

■不正受給例

不正受給例はいくつか存在する。まずは明らかに不正受給として該当する事例を紹介していこう。

キャッシュバック

IT導入支援事業者が、ツールを実質無料で導入できると謳う手法だ。導入支援事業者が実質無償で提供しているから一見すると問題ないように思えるが、不正受給に該当してしまう。

代理手続き

IT導入支援事業者にGビズIDを渡し、代わりに申請ページを開設し申請を行う行為だ。両事業者の合意のもとであれば、時間短縮になり申請のトラブルがないように思えるが、この行為も固く禁じられている。小田氏は次のように指摘する。

「事務局はどのIPアドレスから手続きを行っていたかを確認出来るため、この事例のような代理手続きを行おうとした場合、不正受給が判明する可能性があります。事業者同士が了承しているから問題ではなく、事務局が違反と定めていることを認識しましょう」

とはいえ、事業者の中には補助金の申請に慣れていないケースもある。そのような場合でも、リモート等で指導を受けながら、あくまで申請者自身がPCを操作する形であれば、代理手続きとはみなされない。

あくまで申請者がパソコンを動かし手続きを踏まなければならないと認識すべきだ。

ITツールの利用歴がない

補助金を申請し交付決定を受けたにもかかわらず、実際にはツールの試用版のみを利用しただけで本格導入を中止した(あるいは架空の導入を報告した)ケースだ。実態のない導入として、補助金を不正受給したとみなされるため注意が必要だ。

「ITツールを導入していない実態もそうですが、申請書に研修を実施すると記載した場合も注意が必要です。例えば、研修をメール1本で済ませた場合は、実施がないものとみなされ、不正受給に該当する恐れがあります」(小田氏)

申請内容と導入後の事業者の行動が一致していなければ、当然不正受給の該当事例に当てはまるため注意が必要だ。

その他の行為

これまで紹介した不正受給の行為は、事業者が誤って該当してしまいやすいものばかりだ。その他にもデジタル化・AI導入補助金事務局が不正受給として見なしているケースもあるため注意が必要だ。

「同じシステムを複数の補助金を利用して申請する行為や、企業規模を偽って申請をするケースも不正受給の対象となります」(小田氏)

これらはあくまで代表的な事例に過ぎず、他にも注意すべきトラップは無数に存在する。事務局では、不正受給の疑いのある事業者に対しいつでも立入調査を実施する。立入調査を実施するために入念な事前調査が行われると捉えておくべきだ。

注意すべき点

不正受給行為はさまざまだ。その中でも、IT導入支援事業者が限りなくグレーゾーンの行為を打診するケースも存在する。具体的にどのような事例に注意すべきなのか。「知らなかったでは済まされない」ケースだ。小田氏は2つのケースがあると指摘する。

(1)ツールの中身が同じ場合

あまり珍しいケースではないが、既に導入しているツールに対し、名前だけを変えて別ツールとして申請する行為も不正受給に該当する。

例えば、ツール開発元のA社と、その販売代理店であるB社がいるとする。B社がA社との代理店契約を解除した後、A社のツールを模倣した自社システムを開発し、別ツールとして補助金申請を行うようなケースだ。表面上はツールが変更となったため再申請の要件を満たすように見えるが、もともとA社が開発したツールの模倣であるため違反となる。このような事態を防ぐため、小田氏は次のように語る。

「事業者がどのようなツールを開発しているかだけでなく、事業者が過去にトラブル等を抱えていないかも判断することが重要です」

(2)事務局へのメールを指示する

デジタル化・AI導入補助金の事務局はここ数年不正受給対策を行うために、受給後の事業者の動向を注視している。

「補助金を受給した事業者は、その後5年間にわたり、事務局に対して事業化状況や生産性向上の実績を定期報告する義務を負います。適切な事業者であれば、事務局の抜き打ち調査や立入調査が実施された場合でも問題なく対処できるでしょう」(小田氏)

そのような中、不正を隠蔽するため、IT導入支援事業者が事務局への虚偽報告を指南するケースもあると小田氏は指摘する。

「『事務局に対してこのようなメールを返答してください』と言われた場合でも、その行為が補助金の不正行為に該当する恐れもあります。IT導入支援事業者からの説明を鵜呑みにするのではなく事業者自身で精査することも重要です」

補助金の採択ではなく流れで判断を

デジタル化・AI導入補助金を活用・申請する際に、採択率でIT導入支援事業者を検討している事業者もいるかもしれない。このような判断が結果的に不正行為に巻き込まれてしまう恐れがある。では、どのようにすれば未然にトラブルを防ぐことができるのか。小田氏はこうアドバイスをする。

「巻き込まれないためには、補助金全体の流れを正しく把握しておくことが極めて重要です」

デジタル化・AI導入補助金2026 HP「デジタル化・AI導入補助金制度概要」よりhttps://it-shien.smrj.go.jp/about/

補助金は申請から受給、交付後の実績報告まで細かく手順が書かれている。この手順に則って初めて適切に補助金を受け取り活用できると考えておくべきだ。

「弊社では、デジタル化・AI導入補助金を初めて利用する方のために、誤った認識を解いてから受給の手順を理解してもらうオリエンテーションを必ず実施しています」

実際に複数のデジタル化・AI導入補助金の導入支援事業者に話を聞いたところ、知見のない事業者に対しては必ず、適切な手順と不正リスクを事前に徹底して説明している事実が確認できた。

「全ての事業者が該当するわけではありませんが、補助金の申請を初めて行う事業者に対し、『うちは採択率が高く今からでも間に合います』と強めの営業をかける場合は注意が必要です」

デジタル化・AI導入補助金を申請する際に不正受給を理解し、全体像を把握することが重要だ。とはいえ、事業者では判断が難しいところがある。そのような時は、デジタル化・AI導入補助金の導入に携わっている事業者に意見を聞いてみると良いだろう。

「担当しているデジタル化・AI導入補助金の支援事業者の対応に疑問を持って、第三者に意見を聞くケースも珍しくはありません。困ったらセカンドオピニオンを活用することも申請では重要です」

不正に巻き込まれないよう、デジタル化・AI導入補助金について事業者自身も知見を得ることが重要だ。事務局による審査基準や不正認定のガイドラインは年々厳格化している。公式サイトの公募要領や注意喚起を常に確認し、最新のコンプライアンス要件を自ら把握し続ける姿勢が不可欠だ。

記者 山口晃平